国際収支とは・経常収支と金融収支
30秒でわかる国際収支
国際収支は、1年などの期間に、ある国の居住者(その国に生活や仕事の拠点がある人・企業・政府。国籍では決まりません)が外国の人と行った取引を、すべて記録した統計です。取引は中身によって、次の3つの大きな区分に振り分けます(今の区分。2014年の見直しからの形)。対価は取引の見返りに受け取るもの(代金・給料・利子など)、誤差脱漏は集計の漏れや時期のずれで合わない分を埋める調整の項目です。
経常収支
資本移転等収支
金融収支
国際収支の恒等式
先に読む論点GDP統計
試験での出方
| 地方上級 | ★★★ | 特別区Ⅰ類 | ★★ |
|---|---|---|---|
| 市役所 | ★★★ | 国家総合職 | ★ |
| 国家一般職 | ★★ | 国家専門職 | ★★★ |
出題は「取引をどの区分に入れるか」の文の正誤がほとんどです。計算はほぼ無く、区分の定義と、金融収支のプラス・マイナスの向きを覚えているかで決まります。
よく出るタイプ
国際収支の問題は、次の2つのタイプに分けられます。カードを押すと、そのタイプの解き方に切り替わります。
基本の図国際収支の区分の表
国際収支の区分(表で組み立てる)
国際収支の区分を、上から1段ずつ表に書き込みます。「例」の列は、日本を自国として見た取引です。
国際収支の区分(今の区分)
| 項目 | 区分 | 記録するもの | 例 |
|---|---|---|---|
| 貿易・サービス収支 | |||
| 第一次所得収支 | |||
| 第二次所得収支 | |||
| 資本移転等収支 | |||
| 金融収支 | |||
| 誤差脱漏 | |||
| 恒等式 |
- 経常収支:貿易・サービス、第一次所得、第二次所得の3つわかること財・サービスの売り買い、所得の受け払い、使ってなくなるものの無償の移転。どれも、その年の生産や所得に関わるお金の流れです
- 資本移転等:経常収支の外に置くわかること同じ無償の援助でも、建物や設備のように何年も使う資本になるものは、こちらに入ります
- 金融収支:経常収支の外に置くわかること居住者が持つ外国の資産(株・債券・預金など)の増加から、外国への負債の増加を引いたもの。資産が増えるとプラス、負債が増えるとマイナスに記録します
- 誤差脱漏:統計の食い違いを埋めるわかること取引の中身ではなく、集計で合わない分の調整です
- 恒等式:全部をつなぐわかること輸出の代金を外国の預金で受け取ると、経常収支が+になり、同時に外国の資産が増えて金融収支も+になります。同じ額が両方に+で入るので、経常収支から金融収支を引くと0です。どの取引もこのように2か所に記録されるので、経常収支+資本移転等収支−金融収支+誤差脱漏=0 がいつも成り立ちます
表の見方
- 経常収支と資本移転等収支は、外国から受け取るとプラス、外国へ払うとマイナスに記録します。金融収支だけは決まりが違い、居住者の外国の資産が増えるとプラス、外国への負債が増えるとマイナスです。
- 経常収支は3つの収支の合計で、その外に資本移転等収支と金融収支があります。外貨準備も金融収支の内訳です(下の表)。
- 第二次所得収支と資本移転等収支は、どちらも対価の無い移転です。分けるのは、移したものが受け取った側で消費されるか、資本(建物・設備)になるかです。商標権などの生産されたものではない資産の売り買いも、資本移転等収支です。
- 金融収支だけは、恒等式で前にマイナスが付きます。経常収支で代金を受け取る(+)と、その代金で外国の資産が増えて金融収支も+になり、両方が同じ向きに動くためです(タイプ2)。
金融収支の内訳
| 内訳 | 記録するもの | 例 |
|---|---|---|
| 直接投資 | 経営に関わる目的の出資(目安は、その会社の議決権の10%以上を持つこと) | 外国に子会社をつくる |
| 証券投資 | 経営に関わらない株・債券の売り買い | 外国の会社の社債を買う |
| 金融派生商品 | 先物・オプションなどの取引 | 為替の先物の取引 |
| その他投資 | 貸付・借入・預金など | 外国の銀行に預金する |
| 外貨準備 | 政府・中央銀行(通貨当局)が管理する対外資産(外貨の預金・証券、金など) | 円高を抑えるため、政府・日本銀行が円を売ってドルを買う(為替介入) |
どの内訳でも、居住者の外国の資産が増えればプラス、外国への負債が増えればマイナスです。
タイプ1経常収支の中の区分
第一次所得収支と第二次所得収支の違い(経常収支の区分)
見分け方:「〜は第一次所得収支に計上される」「貿易・サービス収支に含まれる」のように、取引と経常収支の中の3つの収支の組が文に入っています。給料・配当・利子・使用料・援助・仕送りが題材になりやすいです。
なぜそうなるか区分は「何の対価か」で決まる
取引 → 対価があるか → 対価は何か、の順にたどると区分が1つに決まります。
- 対価があり、財やサービスの代金 → 貿易・サービス収支
- 対価があり、働いたことや資金を出したことへの見返り(所得) → 第一次所得収支
- 対価が無く、受け取った側で消費される → 第二次所得収支
受け取るのが個人か企業か、取引の額が大きいか小さいかでは区分は変わりません。
判定のしかた
- 1
対価があるかを見る
援助・寄付・仕送りは対価が無い取引です。代金・給料・配当・利子・使用料は対価です。 - 2
財・サービスの代金なら貿易・サービス収支
財(モノ)の輸出入は貿易収支、輸送・旅行の代金や、特許・著作権などの使用料はサービス収支です。「財ではないから経常収支の外」は誤りです。 - 3
所得なら第一次所得収支
働いた対価の給料(雇用者報酬)と、出資・貸付への見返りの配当・利子(投資収益)です。株を買う・お金を貸すこと自体は金融収支で、そこから生まれる配当・利子が第一次所得収支です。 - 4
対価が無く消費されるなら第二次所得収支
食料・医薬品の無償援助、寄付、外国にいる家族への仕送りです。資本になるもの(建物を建てる資金など)は資本移転等収支へ(タイプ2)。
例で確かめる6つの取引を経常収支の3つに振り分ける
日本を自国として、6つの取引を1つずつ振り分けます。日本が受け取る取引はその収支のプラス、外国へ払う取引はマイナスになりますが、区分はどちらでも同じです。
| 取引 | 貿易・サービス | 第一次所得 | 第二次所得 |
|---|---|---|---|
| 特許の使用料 | |||
| 海外旅行のホテル代 | |||
| 子会社からの配当 | |||
| 農園で働いた給料 | |||
| 食料の無償援助 | |||
| 母国への仕送り |
- 使用料:日本の会社が外国の会社に特許を使わせて受け取るわかること技術を使わせるのはサービスの提供なので、サービス収支の受取
- 旅行:日本の人が海外のホテルに泊まって払うわかること宿泊はサービスなので、サービス収支の支払い
- 配当:日本の会社が海外の子会社から受け取るわかること出資した資金への見返り(投資収益)なので、第一次所得収支の受取
- 給料:外国に住む人が、日本の農園で短い期間働いて受け取るわかること働いた対価(雇用者報酬)なので、第一次所得収支の支払い
- 食料援助:日本の政府が途上国に食料を無償で送るわかること対価が無く、受け取った国で消費されるので、第二次所得収支の支払い
- 仕送り:日本に住んで働く外国の人が、母国の家族に送るわかること対価の無い移転なので、第二次所得収支の支払い
給料の取引で、働いた人は外国の居住者のままです。生活の拠点は外国にあり、日本には短い期間だけ働きに来たためです。日本に住んで働く外国の人は、国籍にかかわらず日本の居住者なので、母国への仕送りは日本から外国への移転になります。
国際収支の例題(経常収支の区分)
自分で解いてみる国際収支の例題1(第一次所得収支と第二次所得収支)
選択肢を押すと、正解と解説が出ます。
正解は 3
寄付は対価が無く、受け取った側で使われる移転なので第二次所得収支です。正解は3です。
| 選択肢 | 正しい区分 | どの間違いから出る文か |
|---|---|---|
| 1 | 第一次所得収支(投資収益) | 配当の元をたどって財の取引と取り違える |
| 2 | 貿易・サービス収支(サービス収支) | 「使用料」を所得と取り違える。使わせるのはサービスの提供 |
| 3 | 第二次所得収支 | 正しい |
| 4 | 第一次所得収支(投資収益) | 貸付そのもの(金融収支)と、そこから生まれる利子を取り違える |
| 5 | 貿易・サービス収支(貿易収支の輸入) | 「設備投資」の投資を、金融資産を買う投資と取り違える |
タイプ2資本移転等収支・金融収支と恒等式
資本移転等収支・金融収支の符号と恒等式
見分け方:「資本移転等収支に計上される」「金融収支はプラス(マイナス)になる」「経常収支が黒字なら」のように、経常収支の外の区分や、金融収支の向きが文に入っています。見直し前の区分の名(資本収支など)が出る問題もあります(まとめの「よくある間違い」で今の名との対応を示します)。
なぜそうなるか経常収支の黒字は、対外純資産の積み増しになる
日本の会社が機械を輸出し、代金を外国の銀行の預金で受け取ると、2か所に記録されます。
- 機械を売った → 貿易収支がプラス(経常収支のプラス)
- 外国の預金が増えた → その他投資の資産が増える(金融収支のプラス)
どの取引も、このように「取引の中身」と「代金の受け払い」の2か所に記録されます。国際収支では、収支がプラスのことを黒字、マイナスのことを赤字といいます。金融収支の黒字は、お金が入ってくることではなく、外国の資産が外国への負債より多く増えたことです。
だから、誤差脱漏と資本移転等収支が小さければ、経常収支の黒字は金融収支の黒字と同じ大きさになります。これは対外純資産(外国の資産−外国への負債)の積み増しです。
使える条件:金融収支を「資産の増加をプラス」とする今の区分のとき。恒等式 経常収支+資本移転等収支−金融収支+誤差脱漏=0 の金融収支を右辺へ移した形です。
判定のしかた
- 1
無償の移転は「資本になるか」で分ける
建物・道路・設備をつくる資金の無償援助と、債務の免除は資本移転等収支です。債務の免除は、貸したお金を返さなくてよいことにすることで、返してもらうはずの財産をまとめて渡すのと同じなので、ここに入ります。食料・医薬品のように消費されるものは第二次所得収支です。 - 2
資産を買う・貸す・預けるは金融収支
株・債券・貸付・預金・外貨準備の増減です。経営に関わる目的の出資は直接投資、そうでない株・債券は証券投資です。 - 3
居住者のどちら側が増えたかで符号を決める
居住者の外国の資産が増えればプラス、外国への負債が増えればマイナスです。外国の人が日本の株や国債を買うと、日本は外国の人に配当や利子を払い、求められれば返す立場になります。国際収支では、これを日本の外国への負債と数えるので、マイナスの側に記録します。「資本が流れ込むからプラス」とは考えません。 - 4
恒等式で残りを決める
経常収支が黒字なら、資本移転等収支と誤差脱漏が小さい限り、金融収支も黒字(プラス)です。
例で確かめる3つの取引を記録して恒等式を確かめる
日本を自国として、ある年に次の3つの取引だけがあったとします(単位は億円)。
| 取引 | 経常収支 | 資本移転等 | 金融収支 |
|---|---|---|---|
| 機械の輸出 | |||
| 外国の株の購入 | |||
| 校舎の資金の援助 | |||
| 計 |
- 輸出:機械を100億円で売り、代金を外国の預金で受け取るわかること貿易収支が+100、外国の預金(資産)が増えて金融収支が+100
- 株の購入:外国の会社の株を30億円買い、外国の預金から払うわかること株(証券投資)が+30、預金(その他投資)が−30で、金融収支は差し引き0
- 援助:途上国の校舎を建てる資金20億円を無償で出し、外国の預金から払うわかること資本になる移転なので資本移転等収支が−20、預金が減って金融収支も−20
- 合計:列ごとに足すわかること経常収支+100、資本移転等収支−20、金融収支+80
恒等式で確かめると、100+(−20)−80=0 です。経常収支の黒字100億円のうち、援助に出した20億円を除く80億円が、対外純資産の積み増しになりました。株の購入は、資産の中身が預金から株に替わっただけなので、金融収支の合計は変わりません。
国際収支の例題(金融収支と恒等式)
自分で解いてみる国際収支の例題2(金融収支の符号と恒等式)
選択肢を押すと、正解と解説が出ます。
正解は 4
恒等式 経常収支+資本移転等収支−金融収支+誤差脱漏=0 で誤差脱漏を0とすると、金融収支=経常収支+資本移転等収支=60+(−5)=55 で、プラスなので55億円の黒字です。正解は4です。
| 選択肢 | 正しくはこう | どの間違いから出る文か |
|---|---|---|
| 1 | 日本の負債の増加なので、金融収支のマイナスの側に記録される | 見直し前の資本収支の符号(流入がプラス)を当てる |
| 2 | 資本になる移転なので、資本移転等収支 | 「対価が無い」だけで第二次所得収支に入れる |
| 3 | 外貨準備は金融収支の内訳 | 見直し前の区分(外貨準備増減が別立て)で考える |
| 4 | 正しい | |
| 5 | 金融収支もプラス(対外純資産の積み増し) | 恒等式の金融収支の前のマイナスを落とす |
恒等式を使って金融収支の値を求める計算と、金融収支の符号の問題は、GDP統計の論点の単元(貯蓄・投資と経常収支の関係を表す ISバランス式と部門の収支)でも出ます(GDP統計の解説)。
まとめ覚えることと間違いやすい点
覚えることの表(今の区分)
2014年の見直しからの今の区分で、日本を自国として見た場合です。
| 取引 | 区分 | 経常収支の中か |
|---|---|---|
| 財の輸出入 | 貿易収支 | 中 |
| 輸送・旅行の代金、特許などの使用料 | サービス収支 | 中 |
| 給料(雇用者報酬)・配当・利子(投資収益) | 第一次所得収支 | 中 |
| 食料・医薬品の無償援助・寄付・仕送り | 第二次所得収支 | 中 |
| 建物・設備をつくる資金の無償援助・債務の免除・商標権などの売り買い | 資本移転等収支 | 外 |
| 株・債券・貸付・預金・外貨準備の増減 | 金融収支 | 外 |
| 金融収支の向き | 今の区分での記録 |
|---|---|
| 居住者の外国の資産が増える(外国の株を買う) | プラス |
| 居住者の外国への負債が増える(外国の人が日本の株を買う) | マイナスの側に記録 |
| 恒等式 | 経常収支+資本移転等収支−金融収支+誤差脱漏=0 |
| 経常収支が黒字(資本移転等収支・誤差脱漏が小さいとき) | 金融収支も黒字(対外純資産の積み増し) |
よくある間違い
| 誤りの文 | 正しくはこう |
|---|---|
| 個人が受け取る配当・利子は第二次所得収支 | 受け取る人では決まらない。投資収益は第一次所得収支 |
| 外国で短い期間働いて受け取る給料は、サービス収支 | 働いた対価は所得(雇用者報酬)で、第一次所得収支 |
| 財ではない取引(航空運賃・旅行)は経常収支の外 | サービスの代金なので、貿易・サービス収支 |
| 無償の援助はすべて資本移転等収支 | 消費されるもの(食料・医薬品)は第二次所得収支。資本になるものだけが資本移転等収支 |
| 外国の企業への出資・外国の国債の購入は第一次所得収支 | 資産を買うことは金融収支。そこから生まれる配当・利子が第一次所得収支 |
| 資本移転等収支は経常収支の内訳 | 経常収支の外。外に置かれるのは資本移転等収支と金融収支の2つ |
| 外国からの資本の流入は、金融収支のプラス | 負債の増加なのでマイナス。流入をプラスとしたのは見直し前の資本収支 |
| 経常収支が黒字なら、金融収支は赤字 | 恒等式の金融収支の前にはマイナスが付くので、資本移転等収支と誤差脱漏が小さければ、金融収支も黒字 |
| 経常移転収支は、見直しで資本移転等収支になった | 経常移転収支は第二次所得収支に名を改め、経常収支の中のまま |
| 資本移転等収支は、見直しで新しく設けた項目 | 見直し前の「その他資本収支」が名を改めたもの |
| 見直しは日本だけの事情で行った | IMF(国際通貨基金)の国際収支マニュアル第6版に合わせた見直し |
見直し前の区分の名を見たら、今の名に置き換えてから考えます。所得収支 → 第一次所得収支、経常移転収支 → 第二次所得収支、その他資本収支 → 資本移転等収支、投資収支と外貨準備増減 → 金融収支(資本収支は無くなりました)。金融収支は、見直し前の投資収支・外貨準備増減とはプラスとマイナスの向きが逆です(資産の増加がプラス)。
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