財政・金融政策の効果とは(IS-LM分析)
30秒でわかる財政・金融政策の効果
物価が一定の短期の閉鎖経済(海外との取引を考えない経済)で、政府や中央銀行の政策が国民所得(Y)と利子率(r)をどう動かすかを、IS 曲線(財市場が均衡する所得と利子率の組)と LM 曲線(貨幣市場が均衡する組)の交点で読みます。
財政政策(政府支出の増加・減税)
金融政策(貨幣供給の増加)
クラウディング・アウト
傾きと効き方
このページでは、次の経済を「基本のモデル」と呼び、図と例で使います。消費 (限界消費性向 c は0.9)、投資 、政府支出 、貨幣供給 、物価 、実質の貨幣需要 。財市場の釣り合い に入れてまとめると (IS 曲線の式)、貨幣市場の釣り合い(実質の貨幣供給 = 貨幣需要)は (LM 曲線の式)です。この2本を連立して解くと、所得900・利子率5で釣り合っています。
試験での出方
| 地方上級 | ★★★ | 特別区Ⅰ類 | ★★★ |
|---|---|---|---|
| 市役所 | ★★ | 国家総合職 | ★★★ |
| 国家一般職 | ★★★ | 国家専門職 | ★★★ |
曲線の動きを問う文の正誤と、IS・LM の式を使う計算の両方が出ます。
よく出るタイプ
財政・金融政策の効果の問題は、次の4つのタイプに分けられます。
基本の図IS-LMのシフトとクラウディング・アウト
IS-LM分析で財政政策の効果を読む(クラウディング・アウトとは)
- 最初:IS0 と LM の交点 E0 で、所得900・利子率5に決まる
- 財政拡大:政府支出が10増えるわかることどの利子率でも財の需要が増えるので、IS0 が IS1 へ右へ動く
- 利子率一定:利子率が5のままならわかること所得は45度線の乗数(10倍)のとおり100増え、点F(1000)になる
- 利子率上昇:所得が増えると貨幣の取引需要が増えるわかること貨幣の量は同じなので貨幣が足りず、利子率が上がる。手元の貨幣が減った所で貨幣市場が釣り合う
- 投資が減る:利子率が6に上がり投資が6減るわかること均衡は IS1 と LM の交点 E1(所得940)
- 押しのけ:Fと E1 の所得の差60わかることこれがクラウディング・アウト(実際の増加は40)
図の見方
- 基本のモデルで政府支出を10増やすと、どの利子率でも財の需要が増えるので、IS 曲線そのものが右へ動きます(シフト)。動く幅は、利子率を変えないときの所得の増加で、45度線分析の乗数 を掛けた です(点F。乗数の分母はマクロで使う計算)。
- ところが所得が増えると、買い物に使う貨幣(取引需要)が増えます。貨幣の量は同じなので貨幣が足りなくなり、利子率が上がります。利子率が上がると人々は手元の貨幣を減らして債券などで持つので、上がった所で貨幣市場は再び釣り合います。実際の均衡は、F から IS1 の上を左上へたどった E1 です(F は仮の点です)。
- 利子率が上がって民間投資が減り、所得の増加が小さくなることをクラウディング・アウト(押しのけ)と呼びます。大きさは「Fの所得 − E1 の所得」で測り、ここでは です。
金融緩和で LM 曲線が右へ動く図
- 最初:IS と LM0 の交点 E0 で、所得900・利子率5
- 金融緩和:貨幣供給が20増えるわかること同じ所得では貨幣があまる。利子率が下がって手元に置く貨幣が増えた所で釣り合うので、LM0 が LM1 へ右(下)へ動く
- 新しい交点:利子率が4に下がり投資が6増えるわかること所得は乗数の波及で960(E1)
図の見方
- 貨幣供給を増やすと、同じ所得のままでは貨幣があまります。利子率が下がると債券で持つ得が小さくなり、人々は貨幣を多く手元に置くので、下がった所で釣り合います。このため LM 曲線そのものが右(下)へ動きます。
- 新しい交点 E1 では利子率が下がり(5 → 4)、投資が6増え、乗数の波及で所得は960になります(財政政策と違い、利子率は下がる)。
タイプ1傾きと効果の大小
利子弾力性と政策の効果の大小(クラウディング・アウトの仕組み)
見分け方:「投資の利子弾力性が大きいほど」「LM 曲線が緩やかであるほど」のように、弾力性や傾きの大小と、政策の効果の大小を組み合わせた文が並びます。
なぜそうなるかLM が緩やかなほど、財政政策がよく効く理由
利子弾力性は、利子率が変わったときにどれだけ反応するかの大きさです。貨幣需要を と書きます(L は実質の貨幣需要、kY は所得とともに増える取引需要、−hr は利子率が上がると減る分。基本のモデルでは k=0.2・h=8)。所得が増えて取引需要が増えても貨幣の量は同じなので、利子率が上がって貨幣を持つ量が減らないと釣り合いません。h が大きい(貨幣需要の利子弾力性が大きい)と、利子率が少し上がるだけで貨幣を持つ量が大きく減って釣り合うので、LM 曲線は緩やかです。利子率があまり上がらないので、押しのけられる投資も小さくなります。
所得の増加 40・クラウディング・アウト 60
判定のしかた
- 1
弾力性を傾きに置き換える
投資の利子弾力性 → IS 曲線の傾き、貨幣需要の利子弾力性 → LM 曲線の傾き。弾力性が大きいほど曲線は緩やか(水平に近い)です。投資がよく反応すると、利子率が少し下がるだけで投資が大きく増え、乗数で所得も大きく増えるので、IS 曲線は横に寝た形になります。 - 2
財政拡大 → IS が右へ
政府支出の増加や減税は IS 曲線を動かします。LM 曲線は動きません。 - 3
所得が増える → 取引需要が増える → 利子率が上がる
貨幣市場の話です。取引需要は所得とともに増えます。LM が緩やかなほど上がり方は小さくなります。 - 4
利子率が上がる → 投資が減る
財市場の話です。投資の利子弾力性が大きい(IS が緩やか)ほど、減る投資は大きくなります。 - 5
押しのけは政府支出の増加分まで
IS 曲線が右下がりで LM 曲線が右上がりなら、所得は増えます。投資の減少が政府支出の増加と同じになる(所得が増えない)のは、IS が右下がりなら LM 曲線が垂直のときだけです(IS 曲線が水平のときも全部押しのけられます。タイプ2)。
金融政策は逆向きの連鎖(貨幣が増える → 利子率が下がる → 投資が増える)なので、IS 曲線が緩やか(投資がよく反応する)なほど、LM 曲線が急(利子率がよく下がる)なほどよく効きます。
例で確かめる貨幣需要の利子率の係数 h を4と12で比べる
基本のモデルで政府支出を10増やし、E0(所得900・利子率5)が同じになるよう貨幣供給を選んで、h だけを変えます(スライダーの4と12)。
| h=4(LM が急) | h=12(LM が緩やか) | |
|---|---|---|
| 所得の増加 | 25 | 50 |
| 利子率の上昇 | 1.25 | 約0.83 |
| クラウディング・アウト | 75 | 50 |
利子率一定なら100増える所が、h が大きいほど押しのけが小さく、所得が大きく増えます。
財政・金融政策の効果の例題(傾きと効果の大小)
自分で解いてみる財政政策の効果の例題1(傾きと効果の大小)
選択肢を押すと、正解と解説が出ます。
正解は 2
投資が利子率にあまり反応しなければ、利子率が上がっても投資はあまり減らないので、財政政策はよく効きます。正解は2です。
- 1:弾力性が小さいと LM 曲線は急になり、財政政策の効果は小さくなります(小さいと緩やかを取り違えた文)。
- 3:弾力性が大きいと IS 曲線は緩やかで、金融政策の効果は大きくなります(傾きの向きを逆にした文)。
- 4:LM が緩やかなら利子率の上昇は小さく、押しのけも小さくなります。
- 5:押しのけは最大でも政府支出の増加と同じ額です。問題文のように IS が右下がりなら、そうなるのは LM 曲線が垂直のときだけです。
| 効く条件 | 財政政策 | 金融政策 |
|---|---|---|
| LM 曲線 | 緩やかなほど | 急なほど |
| IS 曲線 | 急なほど | 緩やかなほど |
タイプ2両極の4つの場合
流動性のわな・LM垂直・IS垂直・IS水平の政策の効果
見分け方:「流動性のわな」「利子弾力性がゼロ(無限大)」「LM 曲線が垂直(水平)」のような極端な場合の言葉が出ます。総需要曲線が垂直になる場合や、ピグー効果を問う文もこのタイプです。
なぜそうなるか政策が「どこで止まるか」で結論が決まる
金融政策は、次の連鎖のうち(貨幣市場)と(財市場)の2つの矢印がどちらも働いて初めて所得を増やします。
貨幣供給の増加 →(貨幣市場)利子率の低下 →(財市場)投資の増加 → 所得の増加
- 流動性のわな(利子率がこれ以上下がらない水準で、増えた貨幣がすべて手元に持たれる状態)では、1つ目の矢印で止まります。
- 投資の利子弾力性がゼロ(IS 垂直)では、利子率は下がるのに2つ目の矢印で止まります。
結論はどちらも「金融政策は効かない」ですが、止まる場所が違います。財政政策のクラウディング・アウトも2つの矢印(所得の増加 →(貨幣市場)利子率の上昇 →(財市場)投資の減少)でできていて、1つ目が止まる(流動性のわな)か2つ目が止まる(IS 垂直)と起きません。
判定のしかた
- 1
弾力性を曲線の形に置き換える
ゼロなら垂直、無限大なら水平。貨幣需要なら LM、投資なら IS の形です。 - 2
財政拡大 → IS が右へ
LM が垂直なら利子率が上がるだけで、効きません。IS が水平でも効きません。投資が利子率にきわめて敏感なので、利子率がわずかでも上がりかけると投資が大きく減り、利子率は動かないまま政府支出と同じだけ投資が減ります。 - 3
金融緩和 → LM が右へ
LM が水平(わな)なら利子率が下がらず、IS が垂直なら投資が増えず、効きません。 - 4
押しのけの有無
利子率が上がらない(LM 水平)か、上がっても投資が減らない(IS 垂直)なら、押しのけは起きず所得は乗数どおりに増えます。全部押しのけられるのは LM 垂直と IS 水平です。
例で確かめる4つの場合で、財政拡大と金融緩和を1つずつ当てはめる
どの図も、もう一方の曲線は普通の形(IS は右下がり、LM は右上がり)、物価は一定です。
- 形:貨幣需要の利子弾力性が無限大わかることLM は水平(流動性のわな)。交点は E0
- 財政拡大:IS0 が IS1 へわかること利子率は上がらず投資は減らない。所得は乗数どおり E1 まで(押しのけなし)
- 金融緩和:貨幣を増やしても、増えた分はすべて手元に持たれるので利子率は下がらないわかることLM は水平のまま。交点は E0 から動かない(金融は効かない)
- 形:貨幣需要の利子弾力性がゼロわかることLM は垂直。所得は貨幣の量だけで決まる
- 財政拡大:IS0 が IS1 へわかること利子率が上がるだけで所得は E0 と同じ。乗数どおりなら F まで行く分が全部押しのけられる
- 金融緩和:LM0 が LM1 へ右へわかること利子率が下がり投資が増え、交点は E2 へ。所得が増える(金融はよく効く)
- 形:投資の利子弾力性がゼロわかること投資が利子率に反応しないので IS は垂直
- 財政拡大:IS0 が IS1 へわかること利子率は上がるが投資は減らない。所得は乗数どおり E1 まで(押しのけなし)
- 金融緩和:LM0 が LM1 へわかること交点は E2 へ。利子率は下がるが投資が増えないので、所得は E0 と同じ(金融は効かない)
- 形:投資の利子弾力性が無限大わかること財市場が釣り合う利子率は1つに決まり、IS は水平
- 財政拡大:政府支出が増えるわかること利子率がわずかに上がりかけるだけで投資が同じだけ減るので、IS は水平のまま動かず、交点は E0 のまま(財政は効かない)
- 金融緩和:LM0 が LM1 へわかること利子率は変わらず、IS に沿って所得が E1 まで増える(金融はよく効く)
総需要曲線が垂直になる場合とピグー効果
縦軸に物価、横軸に所得をとった総需要曲線は、物価が下がったときの IS-LM の所得の動きを写したものです(導き方は「総需要・総供給」で)。物価が下がると実質の貨幣の量 が増え、LM が右へ動き、利子率が下がって投資が増えます(ケインズ効果)。このため、ふつうの総需要曲線は右下がりです。
- わな:LM0 は利子率が低い所だけ水平(流動性のわな)わかることIS0 はその水平な所で LM0 と交わる(E0)
- 物価下落:実質貨幣供給が増え LM0 が LM1 へ右へわかること水平な所は重なったままで、交点は E0 のまま。所得が増えないので、総需要曲線は垂直
- ピグー効果:物価が下がると手持ちの資産の実質の価値が増え、消費が増えるわかることIS0 が IS1 へ右へ。交点は E1 で所得が増える
- 流動性のわなでは利子率が下がらず、IS 垂直では投資が増えないので、物価が下がっても所得は増えず、総需要曲線は垂直になります。同じ理由で、垂直な総需要曲線は金融緩和では動きません。政府支出を増やせば、IS が右へ動くので右へ動きます。
- ピグー効果:物価が下がると、家計が持つ貨幣などの資産の実質の価値が増え、消費が増えます。消費が増えて IS が右へ動く経路で、利子率を通らないので、わなの中でも所得が増え、総需要曲線は右下がりになります。
財政・金融政策の効果の例題(両極の場合)
自分で解いてみる流動性のわなの例題(両極の場合)
選択肢を押すと、正解と解説が出ます。
正解は 3
LM 曲線が垂直なら、金融緩和で LM 曲線そのものが右へ動き、所得は増えます。正解は3です。
- 1:わなでは利子率が上がらず、押しのけは起きません(LM 垂直の結論と入れ替えた文)。
- 2:結論は合うが理由が違います。IS 垂直では利子率は下がり、投資が反応しません(流動性のわなの理由と入れ替えた文)。
- 4:無限大なら IS は水平で、財政政策は効きません(ゼロと無限大を入れ替えた文)。
- 5:ピグー効果は消費を増やして IS を右へ動かす経路です。LM を動かし利子率を下げるのはケインズ効果で、わなでは利子率が下がりません。
| 弾力性 | ゼロ | 無限大 |
|---|---|---|
| 貨幣需要(LM) | 垂直:財政は効かない・金融は効く | 水平:財政は効く・金融は効かない |
| 投資(IS) | 垂直:財政は効く・金融は効かない | 水平:財政は効かない・金融は効く |
タイプ3連立して所得の変化を出す
IS-LMの連立で政策の効果を求める(クラウディング・アウトの大きさ)
見分け方:消費関数・投資関数・貨幣市場の式が並び、「政府支出を30増やしたとき、国民所得はいくら増えるか」「クラウディング・アウトの大きさはいくらか」「投資はいくら減るか」と聞かれます。
なぜそうなるか分母に「押しのけの分」が足される理由
45度線分析の所得の増加 の分母 1−c は、所得が1増えたとき支出に回らない分(漏れ)でした。IS-LM では、所得が1増えると LM の式から利子率が 上がり、投資が 減ります(b は投資の式の r の係数、k・h は貨幣需要の式の Y と r の係数)。この投資の減少も所得を押し下げる漏れなので、分母に足して になります。基本のモデルなら で、45度線の乗数10が4に下がります。
使える条件:閉鎖経済で物価が一定、、、、租税は定額のとき。減税なら分子は 減税額です。
解き方の手順
- 1
IS の式を作る
に代入します。政策で動かす G・T は数を入れず文字のまま残します。 - 2
LM の式を作る
。名目の貨幣が増えるときは物価で割って実質に直します。中央銀行が国債などを買って貨幣を出す(買いオペ)ときは、出した額に貨幣乗数(中央銀行が出した貨幣1に対して世の中の貨幣が何倍になるか)を掛けて、貨幣供給の増加に直します。 - 3
変化分を取る
式の両辺で、政策の前と後の差を取ると、定数は消えて の付いた量だけが残ります。 - 4
- 5
聞かれたものに直す
押しのけなら45度線の増加との差、投資の減少なら 。
例で確かめる基本のモデルで政府支出を10増やす
をまとめると、IS は です(G=20 なら、はじめにの )。LM は です。変化分は
IS: LM:
LM から 。IS に入れると 、 で です。
| 項目 | 値 | 出どころ |
|---|---|---|
| 利子率一定の増加 | 100 | |
| 実際の増加 | 40 | 連立した |
| クラウディング・アウト | 60 | |
| 利子率の上昇 | 1 | |
| 投資の減少 | 6 |
貨幣供給を20増やすときは分子が で、 増えます。
クラウディング・アウトの例題
自分で解いてみるクラウディング・アウトの求め方の例題
選択肢を押すと、正解と解説が出ます。
正解は 3
利子率が一定なら 増えます。連立すると、IS:、LM: より 。IS に入れて 、 で です。差は 、正解は3です。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 均衡(前 → 後) | 所得520 → 560、利子率5 → 7 |
| 利子率一定の増加 | 64 |
| 実際の増加 | 40 |
| 投資の減少 | 6() |
1の6は投資の減少(所得ではなく投資で答えた値)、2の16は政府支出と同額が押しのけられるとした値、4の40は実際の増加、5の64は利子率一定の増加です。投資の減少6を45度線の乗数4倍で所得に直しても24になります。
タイプ4逆算・利子率が外から決まる
目標から政策の量を逆算する・利子率が外から決まる場合
見分け方:「所得を50増やしたい」「完全雇用国民所得(働きたい人が全員働けるときの所得)に一致させたい」「純輸出(輸出−輸入)を0にしたい」と目標が先に与えられ、政策の量を聞かれます。「利子率は海外の利子率に等しい」「利子率が変化しないように」のように、利子率が先に決まる問題もこのタイプです。
なぜそうなるか利子率を保つと、所得は乗数どおりに増える
政府支出を増やすのと同時に貨幣供給を増やして LM も右へ動かせば、利子率は上がらず、押しのけは起きません。必要な貨幣の量は、利子率が一定なので LM の式 だけで決まります。
- 最初:IS0 と LM0 の交点 E0(所得900・利子率5)
- 財政拡大:政府支出が10増え、IS0 が IS1 へわかることこのままでは利子率が6に上がり、交点は A(所得940。基本の図の E1 と同じ点)
- 貨幣も増加:利子率が5のままになるよう貨幣供給を20増やすわかることLM0 が LM1 へ右へ
- 新しい交点:E1(所得1000・利子率5)わかること投資は減らず、所得は乗数のとおり100増える
解き方の手順
- 1
目標を所得の変化に直す
水準の目標なら今の均衡を出して差を取ります。純輸出の目標なら(海外との取引を入れたモデルのとき)、輸出が一定で、所得が1増えると輸入が m 増える(m は限界輸入性向)ので、 で所得の変化に直します。 - 2
変化分の式に入れる
タイプ3と同じ IS・LM の変化分に と、すでに決まっている政策を入れます。 - 3
残った政策の量を解く
IS から が出れば、LM に入れて必要な貨幣の量が出ます。 - 4
名目・元の量に直す
実質の貨幣に物価を掛けて名目に、貨幣供給を貨幣乗数で割ってマネタリーベース(中央銀行が直接出す貨幣の量)に直します。
利子率が外から決まるときは、だれが利子率を決めているかで使う式が変わります。
- 資本移動が完全な小国で、変動相場制、名目貨幣供給が与えられているとき(海外とお金を自由にやり取りでき、海外の利子率を動かせない小さな国。国内の利子率は海外の利子率に等しい):利子率を LM の式に入れるだけで所得が決まります。IS は為替レートを決めるのに使います(くわしくは「マンデル=フレミング・モデル」)。泉の「利子率を外から与えて解く」問題はこの場合です。
- 中央銀行が利子率を保つように貨幣供給を動かすとき(閉鎖経済で「利子率が変化しないように」の問題や、固定相場制):逆に、所得は IS で決まり、LM は必要な貨幣の量を決めます。上の図がこれです。
貨幣需要が反応するのは名目利子率(ふつうに目にする利子率)で、名目利子率 = 実質利子率(物価の上昇を差し引いた利子率)+ 予想インフレ率(人々が見込む物価の上昇率)です(変化率の足し算はマクロで使う計算)。実質利子率と予想インフレ率が与えられたら、足してから LM に入れます。ほかの例は予想インフレ率を0とみて、名目と実質を同じ r で表しています。
例で確かめる基本のモデルで逆算する
- 貨幣供給は変えずに、政府支出だけで所得を60増やす:政府支出の乗数は4なので、 です。
- 利子率を5に保ったまま政府支出を10増やす(中央銀行が貨幣供給を合わせる):所得は IS のとおり100増えるので、LM から です(上の図)。
- 利子率が外から決まる(基本のモデルの貨幣市場を、資本移動が完全な変動相場制の小国の貨幣市場とみる):実質利子率1%、予想インフレ率3%なら名目利子率は4%。LM の より です。
| 目標・条件 | 求める量 | 値 |
|---|---|---|
| 所得を60増やす | 政府支出の増加 | 15 |
| 利子率を保つ | 貨幣供給の増加 | 20 |
| 名目利子率4% | 所得 | 860 |
政策の量を逆算する例題
自分で解いてみる目標から政策の量を逆算する例題
選択肢を押すと、正解と解説が出ます。
正解は 5
政府支出は変えないので、IS の変化分は です。 を入れると です。LM の変化分に入れると 。物価は2なので、名目では です。正解は5です。
| 段 | 値 |
|---|---|
| 利子率の変化 | −2(5 → 3) |
| 実質の貨幣の増加 | 20 |
| 名目の貨幣の増加 | 40 |
| 所得 | 400 → 440 |
1の10は実質の20を物価で割った値、2の12は利子率が変わらないとして だけを入れ物価も掛け忘れた値、3の20は実質のまま答えた値、4の24は利子率の低下で増える貨幣需要の8を落とした値です。
まとめ覚えることと間違いやすい点
覚えることの表(両極の4つの場合)
物価が一定の短期の閉鎖経済で、もう一方の曲線が普通の形(IS は右下がり、LM は右上がり)のときです。
| 場合 | 財政政策 | 金融政策 | 押しのけ |
|---|---|---|---|
| 貨幣需要の利子弾力性 ∞(LM 水平・流動性のわな) | 効く | 効かない | なし |
| 貨幣需要の利子弾力性 0(LM 垂直) | 効かない | 効く | 全部(政府支出と同額) |
| 投資の利子弾力性 0(IS 垂直) | 効く | 効かない | なし |
| 投資の利子弾力性 ∞(IS 水平) | 効かない | 効く | 全部(政府支出と同額) |
| 場合 | 結びつく考え方 |
|---|---|
| 流動性のわな | ケインズ。わなでは財政政策で需要を増やす |
| LM 垂直 | 古典派(物価や賃金がすぐに動くと考える学派)の貨幣数量説(貨幣需要は利子率によらない)。マネタリスト(貨幣の量を重く見る学派)も LM は急と考える |
| 総需要曲線が垂直 | 流動性のわなか IS 垂直のとき(ピグー効果を考えない場合) |
| ピグー効果 | 物価下落 → 実質資産の増加 → 消費の増加 → IS が右へ(利子率を通らない) |
よくある間違い
| 誤りの文 | 正しくはこう |
|---|---|
| 弾力性が大きいほど政策はよく効く | 財政と金融で向きが逆。貨幣需要の弾力性が大きいと財政はよく効き、金融は効きにくい |
| 全部押しのけられるのは LM 垂直のときだけ | IS 水平のときも全部押しのけられる |
| 利子率が外から決まれば、いつも LM だけで所得が決まる | 資本移動が完全な小国で変動相場制のとき。利子率を保つ金融政策や固定相場制なら所得は IS で決まる |
| クラウディング・アウトで所得がかえって減る | 投資の減少は最大でも政府支出の増加と同額。所得は減らない |
| 所得が増えると取引需要が減り、利子率が上がる | 取引需要は増え、その超過需要で利子率が上がる |
| 政府支出を増やすと LM が動く | 財政は IS、金融は LM(中央銀行が国債を引き受ける場合は LM も動く) |
| 投資の利子弾力性が大きいほど IS のシフト幅が大きい | 弾力性が決めるのは傾き。シフト幅は利子率一定の乗数で決まる |
| 物価が伸縮的な古典派の体系でも、LM 垂直なら金融緩和で実質所得が増える | 物価が上がるだけで実質所得は変わらない(貨幣の中立性)。「金融が効く」は物価一定のときの結論 |
次にやること
先に読む論点











